保城広至(2015)『歴史から理論を創造する方法-社会科学と歴史学を統合する-』勁草書房

歴史学的な方法論で政治学に取り組んできた著者が、自身の研究にひきつけながら、方法論についてまとめた労作。様々な挿話や古典研究が紹介されていて勉強になる。ただ、日本語で簡潔かつ論理的にまとめられており、近年米国を中心に展開された方法論の代表的な研究書をフォローしている点は評価できるが、どれほど新しい知見を提供しているのかはよくわからなかった。最近、博士号を取得した研究者が、直後に方法論について執筆するケースをたまに目にする。それはおそらく方法論についても集中して取り組んできた人々だからだろうし、方法論についての書籍が(読者層を広げられるし、講義テキストにも使いやすいから)売れているということなのかもしれない。

しかし、どれほど深い知見を提供しているかは、もう少し真摯に問われてもいいのではないか。例えば本書では、理論を構築する具体的な方法として、過程追跡ではなく「過程構築」を行うことを勧めている(もう一つ質的比較分析を取り上げているが、紹介程度に見える)。「過程構築」というアイデアについては引用文献があるので著者の独自案では必ずしもないだろうが、過程追跡と何が決定的に違うのだろうか。そして理論を生み出すうえで、この方法の利点はどこにあるのだろうか。

この疑問は、本書全体に降りかかってくる。そもそも、理論あるいは仮説を構築する方法は無数にあっても良いと思われる(だからこそ検証する方法論は多々書かれているが、理論や仮説を構築する方法論はそれほど書かれていない)。この点については著者も認めているようで、終章では「ここで考察した内容が、社会科学と歴史学を結び付ける唯一の方法であると主張しているわけではない」と割り切っている。本書を最後まで読み進めた感想として有りがちなのは、「ああ、これはいろいろあるうちの1つに過ぎなかったのね」というものだ。しかし著者は「過程構築」を勧めるにあたって、社会科学と歴史学を統合させる意義、限定された理論の範囲、「説明」の意味、推論の方法、事例選択といったステップを論理的に踏んで、それぞれ著者の立場も明確にしている。そうすると読者はどこまでさかのぼらなければならないのだろうか?社会科学と歴史学を統合させるという最初の目論見も「いろいろあるうちの1つ」に過ぎなかったのだろうか。この点ははっきりさせてほしかった。

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