月別アーカイブ: 2020年6月

「ダバオッチ」での連載

ダバオでビジネスを展開する20年来の友人が、ダバオッチというサイトを運営しています。ロックダウン中で身動きできないこともあり、隔週コラム連載の依頼を引き受けてみました。論文よりも幅広いテーマを取り上げて、 ニュースよりも一歩踏み込んで、 フィリピンの時事問題を解説していきたいと思います。ご関心のある方は、次のリンクからご笑覧ください。

『ダバオッチ』日下渉 連載

ドゥテルテの暴力を支える「善き市民」 ―フィリピン西レイテにおける災害・新自由主義・麻薬戦争

『アジア研究』の「特集:アジアで民主主義は後退しているか?」で、「ドゥテルテの暴力を支える「善き市民」 ―フィリピン西レイテにおける災害・新自由主義・麻薬戦争」という論文を書かせてもらいました。

大学生の時に参加したワークキャンプで惚れ込んで以来、毎年のように通ってきたレイテ島の農村で生じた数奇な出来事について書いています。

2013年11月には、台風ヨランダの強風で山間部ではココナツが片っ端からなぎ倒され、人々の生活基盤が破壊されました。新しくココナツの苗を植えても実がなるまで7,8年かかるので、人々はそれだけの期間、収入を失ってしまったのです。高潮で8,000人以上が亡くなった沿岸部の被害が広く報道されましたが、山間部の困窮も甚大で、多くの若者が学校をやめて働きに出ていきました。

翌月には清水展先生と現地に入って被害状況を調査、そのまま新年を迎えました。翌年2月にはFIWCの学生たちとキャッシュ・フォー・ワークの方式で生活インフラを再建するワークキャンプを行ったことを思い出します。

台風から3年後、2016年6月には、麻薬王の父がアルブエラ町の町長に当選する一方、私の旧友にも殺されたり、死の脅迫をされる人たちが出ました。11月には、逮捕された町長が、獄中で警察に殺害されました。この事件は国内外で大きく報じられ、まさかこんな田舎町が世界の着目を浴びる日が来るだなんて信じられませんでした。

旧友たちが協力してくれたおかげで、かなり深い情報を集めることができましたが、なかなか気の滅入る、また時に危険な調査でもありました。 ただ、調査を進めるうちに、きわめて極端な事例であると同時に、現在進行するフィリピン政治と社会の変化を集約的に表す重要な事例だと考えるようになりました。

この論文が形になるまで、レイテに通い続けて20年、目的も分からぬまま台風被害の調査を始めてから7年も経ってしまいました。こんなに無駄に時間をかけた研究は、これからはもうできないかもしれないと思います。ご笑覧いただければ幸いです。

レイテの田舎町から、民主主義、新自由主義、暴力、ココナツ農業、災害、マイクロファイナンス、NGOなど、多様なテーマの関係について論じています。無料アクセスできますので、ご笑覧いただければ幸いです。

紙幅の関係でかなり情報を削ってしまったので、関心のある方は、より民族誌的な記述を充実させた英語版もご参照ください。
Ethnographies of Development and Globalization in the Philippines: Emergent Socialities and the Governing of Precarity, edited by Koki Seki, Routledge, 2020 に収められています。

Disaster, Discipline, Drugs, and Duterte Emergence of New Moral Subjectivities in Post-Yolanda Leyte


My new paper was published in Ethnographies of Development and Globalization in the Philippines: Emergent Socialities and the Governing of Precarity, edited by Koki Seki, Routledge, 2020.

My chapter is a fruit of my 20 years long relationship with Western Leyte, where I fell in love with the Philippines and determined my way of life. The locality was devastated by typhoon Yolanda (Haian) and penetration of illegal drugs accompanied by violence. I had never dreamed such tragedies would happen to the peaceful place with lovely people. This was a dangerous and depressing research, which must be impossible to conduct without the locals’ kind support despite their sense of insecurity.

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Disaster, Discipline, Drugs, and Duterte
Emergence of New Moral Subjectivities in Post-Yolanda Leyte
Wataru Kusaka

This chapter explains why majority of Filipinos, especially the poor, have come to support or at least tolerate President Duterte’s “war on drugs.” I answer this question by arguing that people’s punitive attitude against “evil others” is attributable not only to Duterte’ penal populism but also to the neoliberal governmentality which has increasingly encompassed Filipinos along with the shift of dominant employment from feudal agriculture to the service sector. The rural poor in Leyte have experienced the process in a drastic way within an extraordinary short period of time since typhoon Yolanda (Haiyan) devastated coconut agriculture in 2013. Those who lost their livelihoods became dependent on programs of NGOs, the state, and private sector which encourage beneficiaries to become “good citizens” in exchange for resources. While many have struggled for post-disaster recovery as disciplined “good citizens,” others found alternative sources of income in illegal drug trafficking run by a drug lord family. Amid the atmosphere of violence and insecurity, the “good citizens,” who remain in poverty despite their efforts at self-disciplining, have built up resentment not only against the drug lords, pushers and users, but also against the inefficient state unable to ensure even basic security of life. This has led to their staunch support for Duterte.