中国商務部、ウエスタンデジタルによる旧日立グローバルストレージ買収を条件付承認

2012年3月2日、中国商務部はウエスタンデジタルによるビビティ(旧日立グローバルストレージ)テクノロジーズの買収を条件付きで承認する決定を公告しました(商務部公告2012年第9号)。この結果、企業結合審査決定は2008年8月1日の法施行以来、合計13年(うち禁止決定が1件、条件付承認決定が12件)となりました。

本決定は、2011年12月12日のシーゲイトテクノロジーによるサムスン電子ハードディスク駆動装置(HDD)事業譲受けの条件付承認決定(商務部公告2011年第90号)と同一市場における企業結合が審査対象となっており、後者と合わせて分析する必要があります。付加された条件(被買収事業の独立性継続)もシーゲイト決定と非常によく似たものです(但し、本決定は最低2年間、シーゲイト決定は最低1年間義務付け。その後、同条件の取消申請が可能)。2011年年末、中国商務部独占禁止局の尚明局長は、記者の質問に答えて、ウエスタンデジタルについても同様の条件が付加される可能性があることを示唆していましたが、その予告通りとなりました(本ブログ2011年12月29日投稿参照)。

この2つの企業結合については、日本の公正取引委員会が既に2011年12月28日、シーゲイト側を無条件で承認したのに対し、ウエスタンデジタル側を条件付(3.5インチPC・家電向けHDD事業(市場シェア10%分)の独立の第三者への売却)で承認した旨公表しています(2011年12月28日付報道発表)。日本の決定は、欧州委員会の決定(シーゲイトに関する2011年10月19日付け Press Release及びウエスタンデジタルに関する同年11月23日Press Release)と歩調を合わせるものでしたが、これに対し中国は両取引のいずれにも条件を付加しているので、日欧当局とは異なる処理をしたこととなります。
(2012年3月8日追記 2012年3月5日、米国連邦取引委員会(FTC)が日欧当局と同様な売却条件を付してウエスタンデジタルによる旧日立GSTの買収を承認しました。シーゲイトによるサムスン電子HDD事業買収については、2011年12月7日にClosing letter発給済み(シーゲイト宛)(サムスン電子宛))

この日欧と中国の間で同一案件の取扱いにズレが生じた背景については、すでに2月24日(金)に開催されたある研究会において、シーゲイト事業譲受け案件に即した形で、私なりに分析を加えてみました。1つ目は、寡占市場における協調効果に対する中国当局の姿勢が日欧よりも厳しいものである可能性、2つ目は、それとも関係しますが、需要者からの競争圧力について日欧が比較的、積極的に評価したのに対し、中国がその圧力の存在を否定したという個別考慮要因の評価の違い、です。後者については、ウエスタンデジタルのHDD生産設備がタイの洪水の直撃を受け、その生産の75%が停止し、世界的にHDD在庫が減少した結果、10月に価格が急上昇し、その上昇をPCメーカーが吸収し、(中国PCユーザーを含む)最終消費者にそれを転嫁した事実(=需要者側の競争圧力の不存在を示唆?)を中国商務部側が重視したのに対し、欧州委員会の場合、少なくともシーゲイト事業譲受けに関する審査では、この事実を考慮することは審査タイミングからして不可能であったという、両者の審査のタイミングのズレが大きく作用している可能性が高い、と指摘しました。

いずれにしても本決定及びシーゲイト事業譲受けに関する決定は、パナソニック及び三洋電機統合の審査決定(商務部公告2009年第82号)(本ブログ2009年11月1日投稿も参照)に引き続き、中国独占禁止法による企業結合審査が国際的な企業結合実務の大きな攪乱要因となることを極めて如実に示すもので、より一層の分析を加える価値のある事例といってよいでしょう。逆に、両決定は、中国独占禁止当局を国際的情報交換・調査協力のネットワークに組み入れていくことの重要性を極めて具体的に示しているとの評価も可能でしょう。

これ以外に、シーゲイト(2011年5月19日届出)よりも先に届出された本件結合の審査期間が大幅に長期化(当初届出2011年4月2日、最終決定2012年3月2日で11か月)したことについて、本件公告は、企業結合の再届出がなされたためと説明しています。再届出に関する立件(2011年11月7日)のタイミングから判断すれば、欧州委員会に対する問題解消措置案の提出を受け買収計画に変更が生じたために再届出がされた可能性が高いですが、その辺り必ずしも定かではありません。

以上、速報でした。

習近平副主席訪米の成果

日本でも大きく報道されているように中国共産党次期総書記にして次期国家主席に内定している習近平氏が、2012年2月13~17日、訪米しました。その際、公表された米中経済関係合意の中に本ブログで取り上げた点に関する成果乃至進展があります。

まずは2012年1月のオバマ大統領一般教書演説で取り上げられた輸出信用の問題について。

輸出信用関係では既に2011年5月の米中戦略・経済対話(S&ED)の経済関係合意文書で意見交換をする旨合意していました。その合意直前の米国側担当官の発言を見ると、はっきりとは明言してはいませんが、米国はOECDの輸出信用の枠組みに中国も参加させることを狙っていると読み取れます。

Briefing on the Upcoming U.S.-China S&ED (May 5, 2011)における財務省S&EDシニア・コーディネーターのDavid Loevinger氏の発言から。

“we have started discussing with China is the international arrangement on official export credits. This was, again, negotiated many decades ago. No one cared whether China was in or out. China was just too small a player. Now, China is the world’s largest provider of official export credits, and I think China increasingly understands that when the global rules were being written on things like official export credits, it’s important – increasingly important that China is at the table.”

Third Meeting of the U.S.-China Strategic & Economic Dialogue Joint U.S.-China Economic Track Fact Sheet (5/10/2011)

“The United States and China recognize the importance of transparency and fairness in providing export credits. Both parties agree to exchange views on the importance of the export credit system.”

そんな経緯があり、今回の習氏訪米時には次のように合意されました。

Joint Fact Sheet on Strengthening U.S.-China Economic Relations (February 14, 2012)

“18. The United States and China decided to hold two bilateral seminars to promote transparency and mutual understanding of each other’s export credit agency programs: the first meeting, in early February, brought together senior technical experts representing the U.S. Treasury Department and the U.S. Export-Import Bank on the U.S. side and the Ministry of Finance, China Ex-Im Bank, and Sinosure on the Chinese side; the second meeting is to take place prior to the next S&ED and is to include senior policy officials as well as technical experts. In addition, the United States and China are to establish an international working group of major providers of export financing to make concrete progress towards a set of international guidelines on the provision of official export financing that, taking into account varying national interests and situations, are consistent with international best practices, with the goal of concluding an agreement by 2014.”

後段の合意として、国際的なワーキンググループを設置し、2014年までに協定を締結することを目標とするとありますが、OECDの輸出信用の枠組みに中国を参加させるとは書いてありません。この点、Gary Hafbauer氏は「西側先進諸国が作ったグループに参加することが中国にとって政治的にセンシティブなのでは」と推測しています(Inside U.S.Trade, February 17, 2012, p.28)。いろんな意味で興味深い意見です。

次に「技術移転強制」問題について。

同じJoint Fact Sheetに次のようにあります。

“8. China reiterates its commitment to the policy of reform and opening up and welcomes and encourages, as always, foreign investment. China reiterates that technology transfer and technological cooperation shall be decided by businesses independently and will not be used by the Chinese government as a pre-condition for market access.”(以上、強調はいずれも川島)

これは成果と言えるのか微妙なところです。というもの、この発言は中国側の従来からの「公式発表」通りで、事実上、「技術移転強制」問題は存在しないと言っていると解釈できるからです。実質的に、この問題について米中は平行線で進展はなかったとみた方が良さそうです。米国内産業からの情報収集如何によってWTO提訴の余地も残っているように感じます。

以上、雑感でした。

中国企業結合審査、2012年初の条件付承認事例

中国商務部は、2月9日、化学品業界での合弁事業に関する企業結合審査決定(条件付承認)を下しました(商務部公告2012年第6号 関於附加限制性条件批准漢高香港与天徳化工組建合営企業経営者集中反壟断審査決定的公告)。春節明け、2012年初の商務部決定となります。これで法施行以来、禁止1件、条件付承認11件となりました。

関連商品が「氰乙酸乙酯、氰基丙烯酸酯单体和氰基丙烯酸酯粘合剂」とあり、うっ・・・となったのですが、少し調べるとそれぞれシアン酢酸エチル(原材料)、メチルシアノアクリレートモノマー(中間財)及びメチルシアノアクリレート接着剤(最終財)と分かりました。天徳化工は原材料の世界の二大供給者の1つ(45~50%のシェア)であり、漢高香港(Henkel HK)が中間財を最終財の自家生産のために生産している企業です。この2社の間の垂直型の合弁事業により、中間財の競争者に対し供給上の差別が生じるおそれありとされ、承認の条件として無差別的な供給が義務づけられました。

本件決定で注目点は次の5つです。

1)2011年8月8日に届出後、補充を求められ、9月26日の立件まで1ヶ月半以上、さらに初期審査、実質審査、決定期限延長を経て、2012年2月9日の最終決定まで、全体で半年もかかっています。 ゼネラル・エレクトリック(中国)及び中国神華石炭液化合弁審査決定公告(2011年11月10日)でも、同様に、届出から立件まで1か月以上、決定期限延長を経て、最終決定まで、全体で7ヶ月程かかっています。本件は一方はドイツ系香港企業と、もう片方はケイマン諸島登記ではありますが実質、中国企業の間の合弁、GE(中国)・中国神華は外資系との合弁ではあるものの中国国有企業が一方当事者です。他方、外国会社同士の最近の企業結合審査(シーゲイトテクノロジーによるサムスン電子ハードディスクドライブ事業譲受け審査決定公告(2011年12月12日))でも、届出から立件まで1か月程、決定期限延長を経て、最終決定まで、全体で7ヶ月程かかっています。本件とGE・中国神華の例は、外国企業の結合が特に狙い撃ちされ、審査を遅延させられているわけでなく、中国企業、しかも中国国有企業であっても届出に不備があり、問題解消措置提案が不十分であれば延々と審査が長引くことを示唆しているように思います。
2)上記のGE・中国神華の事例に引き続き、合弁事業が企業結合届出及び審査の対象となっています。ただし、これはこれらの決定が出る前から実務上、確立されていました。
3)地理的市場が世界市場とされたものの、中国市場への影響も合わせて評価されました。
4)2011年9月5日の「企業結合の競争影響の評価に関する暫定規定」(第6条でHHIに言及)施行以来、初めて明確にHHI(4050)に対する言及がされました。ただし、補強的に言及されているにすぎず、その数字に大きな意味は持たされていない印象です。
5)制限的条件の中で下流企業への供給を義務づけた際、「公正、合理的かつ無差別の原則(原文:公允、合理和不岐視的原則)」、いわゆるFRAND原則に触れています。これは欧米において不可欠施設や技術標準化などの文脈で頻繁に使われる原則ですので、ご存じの方も多いと思います。すでにGM・デルファイ買収審査決定(2009年9月28日)でも似たような表現はありましたが(「無差別的に商品を供給すること」、「無差別原則を継続して遵守し、(中略)、無差別的に調達しなければならず、デルファイに対し有利で、他の供給業者に対し不利となる不合理な条件を特に制定してはならない」)、今回は明らかにFRAND原則を意識した用語が使われているのが興味深いです。

本件合弁に関し他の外国でも審査がされているのかどうか把握していません。

以上、速報ということで。

それにしても、新日鉄住金統合の審査はどうなるのでしょうか。2012年1月30日付日本経済新聞によると、同統合は日本、米国、ドイツ、ノルウェー、ロシア、ブジラル、インド、台湾及び韓国から承認が得られ、主要国で残るのは中国とシンガポールだけとのことです。

「技術移転強制」問題で米中がさや当て

米国議会のWebb上院議員(民主党、バージニア州)が、2012年2月2日、米国企業が、米国連邦予算の支援を受け開発された知的財産又は技術秘密を、当該国内でのビジネス展開の条件として技術移転を要求する外国の政府に所有又は支配された企業等へ移転することを禁ずる法案(S.2063)を提出しました。同法案については、米国商工会議所が支持する姿勢を示しています。Webb議員の法案提出に伴うDear Colleague Letterや米国商工会議所のプレス・リリースを参照すれば、この法案が中国による「市場の代わりに技術を(Technology for Market)」と呼ばれることの多い、「技術移転強制」問題(例えば、川島富士雄「中国による補助金供与の特徴と実務的課題―米中間紛争を素材に―」注37参照)に対する牽制であることが分かります。具体例として、原子力発電所のデザイン及び建設、自動車産業、クリーンエネルギー産業等での技術移転が挙げられています。米国商工会議所は、2010年の“China’s Drive for Indigenous Innovation”と題する報告書で、中国政府が「世界的に前代未聞の規模の技術窃盗(technology theft on a scale the world has never seen before)」を企てているとの批判を紹介していました(See e.g., p.4)。

この米国における動きに対し、中国商務部長・陳徳銘氏がブルームバーグ記者に対し、「WTO加盟時に渉外経済法令を全面的に整理し、WTO義務・約束に適合的でない技術移転等の強制的要求は改正、廃止した、技術移転や技術契約は企業の自主的行為であり、中国政府は技術移転を市場参入の前提条件としていない」との反論を展開しています(陈德铭就所谓“强制性技术转让”等问题接受彭博新闻社书面专访(中国商務部2012年2月9日) )。

米国通商代表部が内々に米国国内の業界団体等に対し、2012年1月27日期限で中国政府による技術移転要求の具体例に関する情報提供を求めたとのと報道(Inside U.S.-China Trade, February 1, 2012, pp.1, 8)やこの問題が習近平国家副主席の訪米時(2月14-15日)の主要議題の1つになるとの報道(Inside U.S.-Trade Trade, January 25, 2012, pp.1, 6-7)もあります。大統領選挙のある本年、この紛争も激化の一途かと思われます。

オバマ大統領一般教書演説(中国関連)

1月24日の米国オバマ大統領一般教書演説(Transcript)で、数回、中国との貿易摩擦にかかわる部分が出てきます(強調は川島)。

I will go anywhere in the world to open new markets for American products. And I will not stand by when our competitors don’t play by the rules. We’ve brought trade cases against China at nearly twice the rate as the last administration –- and it’s made a difference. (Applause.) Over a thousand Americans are working today because we stopped a surge in Chinese tires. But we need to do more. It’s not right when another country lets our movies, music, and software be pirated. It’s not fair when foreign manufacturers have a leg up on ours only because they’re heavily subsidized.

Tonight, I’m announcing the creation of a Trade Enforcement Unit that will be charged with investigating unfair trading practices in countries like China. (Applause.) There will be more inspections to prevent counterfeit or unsafe goods from crossing our borders. And this Congress should make sure that no foreign company has an advantage over American manufacturing when it comes to accessing financing or new markets like Russia. Our workers are the most productive on Earth, and if the playing field is level, I promise you -– America will always win. (Applause.)

(Skip)

Our experience with shale gas, our experience with natural gas, shows us that the payoffs on these public investments don’t always come right away. Some technologies don’t pan out; some companies fail. But I will not walk away from the promise of clean energy. I will not walk away from workers like Bryan. (Applause.) I will not cede the wind or solar or battery industry to China or Germany because we refuse to make the same commitment here.

1段落目から2段落目にかけては、補助金供与を含むルール違反をしている競争者に対しては、新たに貿易執行部門を創設して(現在、USTRや商務省等の関連機関を統合する案が浮上しています。)、今まで以上にWTO提訴などを行うという意味だろうと推測可能です。他方、2段落目末尾の水平な競技場(Level playing field)に言及した個所は、米国のいつも論調ですが、それを維持するために具体的にどんな措置をとるのか不明確です(なお、ロシア市場への言及は議会に対ロシア恒久的通常貿易関係=最恵国待遇供与法案の通過を要請したものと理解可能)。しかし、一般教書演説と同日に公表された「アメリカ存続のための青写真(Blueprint for an America Built to Last, Jan. 24, 2012)」の対応箇所(4頁)を読むと、以下のような記述があります。

• A new trade enforcement unit: The President announced the creation of a new trade enforcement unit that will bring together resources and investigators from across the Federal Government to go after unfair trade practices in countries around the world, including China.
• Enhancing trade inspections: The President called for enhancing trade inspections to stop counterfeit, pirated, or unsafe goods before they enter the United States.
• Putting American companies on an even footing: When competitors like China offer unfair export financing to help their companies win business overseas, the United States will provide financing to put our companies on an even footing.

3点目で、不公正な輸出融資に対抗し、米国会社にも融資を行うとあります。つまり、これは「(輸出)補助金合戦の宣戦布告」なのでしょうか。そうだとすれば、その主戦場が、上記演説本体からの引用の3段落目に見える風力発電、太陽発電及び充電池といったクリーンエネルギー産業になるのだろうと読み取れます。

中国の補助金供与を含む産業政策に対しては米国は徐々に態度をエスカレートしてきていましたが(例えば、本ブログ2011年12月13日投稿参照)、大統領選挙の年に至り、それも最高潮に達してきたなという感があります。

商務部、2011年の企業結合審査統計を公表

中国商務部は、2012年1月12日、2012年全国商務系統反壟断工作会議を北京にて開催しました。

既に昨年末、尚明独占禁止局長が12月中旬までの企業結合審査関係の統計を公表していましたが(本ブログ2011年12月29日投稿)、今回2011年全体の統計が公表されました(下記)。実施以来3年5か月の審査終結件数が371件で、そのうち2011年審査終結件数だけで168件、全体の約44%を占めています。2011年に審査件数が急増したことが分かります。

(2011年)
届出 203件(前年同期比49%増)
立件185件(同上57%増)
審査終結168件(同上53%増)
条件付承認4件
禁止0件

(2008年独占禁止法施行以来)
審査終結382件
無条件承認371件(全体の97%)
条件付承認10件
禁止1件

「法に従った届出のなされていない企業結合の調査処理に関する暫定弁法」公布

2011年12月30日、中国商務部が「法に従った届出のなされていない企業結合の調査処理に関する暫定弁法」(商務部令2011年第6号) を公布しました(商務部本体のホームページ上は2012年1月7日に掲載、施行は2012年2月1日)。

2011年6月13日に公表された意見募集稿の時と同様、商務部の独占禁止局でなく条約法律司がまずそのホームページで公表しています(2012年1月5日)。

本弁法の制定の背景としては、公正取引728号(2011年6月)所収の拙稿をご覧ください。本弁法は、すでに2011年12月7日段階で、商務部部務会議を原則通過したと報道されていました。

意見募集稿と同様、法に従った届出がなされていない場合、50万元以下の罰款(行政制裁金)を課し、かつ原状回復措置命令を下すことができるとの、独占禁止法第48条に沿った規定が置かれている(第13条第1項)など大きな違いはありません。ただ、第8条第3項に「(法に従った届出がなされていないと判明し、必要資料を提出した場合の)実質審査は180日以内に完成する」という意見募集稿段階に見られなかった規定が追加されている点が興味深いです。

通常の届出がなされた場合、必要資料を提出し受理立件されてから30日以内に初期審査を実施し(独占禁止法第25条第1項)、実質審査に移行した場合は90日以内に終結することになっているので(同第26条第1項)、最長でも120日となります。ただ、通常の届出の場合でも、最長60日の延長は可能とされているので(同第26条第2項)、合計すれば180日となり、大差はないようにも見えます。しかし、延長の条件として、結合当事会社の同意等が必要とされているので(同第26条第2項第1号など)、必ず延長となるわけではありません。他方、この未届出結合の場合の審査は最初から180日以内とされているので、これはやはり大きな違いといえます。こうした取扱いの違いの理由としては、法に違反して企業結合を実施した当事会社に対する制裁としての意味合い以外に、すでに企業結合を実施済みなのだから至急に審査を終える要請はないとの判断等いくつかの可能性があるように思えます。

ところで、第1条の末尾に「?」がついていたり、第6条で「30日内」となるべきところが、「30内」となっていたり、少々間違いが目立ちます。これは何故なのでしょうか・・・

中国電信及び中国聯通事件に関する学者の意見

すでに本ブログで既報(2011年12月3日)の中国電信及び中国聯通事件に関し、中国社会科学院の王暁曄先生が「中国電信和中国聯通案的主要法律問題」(元は中国法学網に掲載されたものですが、Nortonが当該サイトが危険と警告するので先生の所属機関のサイトへのリンクにしておきます)と題する小論を公表されました(2011年12月上旬)。

王先生は、両社が市場支配的地位を保持しているとした上で、両社が自らと競争関係にあるか否かによってブロードバンド卸売価格に差を設けていたことが差別対価を構成しうるし、そうした差別対価がなくても、インターネット利用者に対する小売価格よりもブロードバンド卸売価格が高く設定されておりマージンスクーズを構成しうるとして、支配的地位の濫用の存在についても積極的な姿勢を示しています。

独占禁止法違反と認定された場合についての問題解決法についても提言されており、そのポイントは、第1に、独占禁止法47条に基づく両社に対する処罰は重いものとする必要はない、他方、第2に、独占禁止法45条に基づいて、両社による約束提出を受け、軽々に調査中止をすべきではない、というものです。

第1の処罰軽減の理由として、まず、多くの国有企業が国有企業であれば独占禁止法の適用は免れることができると誤解していること、さらに、電気通信事業の価格に対しては特別な監督管理制度があり、被監督企業側は、それに違反しない限り、合法であると容易に誤解しやすいことを挙げています。

他方、第2の約束受入れによる調査中止については、ある学者は約束による処理を提言しているが、と前置きしています。これは、おそらく辛紅「電信聯通提出中止反壟断調査申請発改委目前尚未表態 専家建議引入听証程序」法制日報2011年12月5日第6版に掲載された王春暉先生(大連国際商務学院)や盛傑民先生(北京大学)の意見を受けたものと思われます。盛先生は独占禁止法の目的は違反者の処罰でなく、良好な競争構造の形成にあるとして、約束受入れによる調査中止に積極的な立場を明確にしています。

これに対し王先生は、調査中止に反対する主な理由として、次のように述べています。「被調査企業の約束を受け入れるのは、一般により簡便に、より迅速に、より経済的に独占の疑いのある案件を解決するためであるが、この種の案件は一般に比較的複雑で、違法性が特に明らかでなく、特に独占の疑いのある行為がいまだ市場競争に対し厳重な損害をもたらしていない場合である。約束を過度に使用すれば独占禁止法の効力を損ない、独占禁止法の威嚇力を損うため、約束は決して独占禁止法執行機関が通常使用する問題解決方式ではなく、あくまでもごく稀で、ごく特異な状況である。」

上記に加え、今後の国有大企業が関わる市場支配的地位の案件に対する影響が大きいこと、国際上の影響も大きいことなどを追加的な理由として挙げています。

ドイツ競争制限禁止法やEU競争法に詳しい王先生らしく、いずれの論点についてもEU競争法における先例を引用して、非常に説得力のある議論を展開されている印象です。同時に、法起草過程にも深く関与され、「中国独禁法の母」と呼ばれる方らしく、本件の処理如何が中国独禁法の中長期的な発展方向に大きな影響を与えかねないと強い懸念を抱かれていることが非常によく伝わってくる文章です。

12月2日に中国電信及び中国聯通が調査停止を求めて発展改革委に約束を提出した後、発展改革委がより具体的な約束の再提出を求めたという報道もあります(張向東「発改委未中止調査 電信本周或出整改細則」経済観察報2011年12月12日第2版)。果たして発展改革委はどう処理するのか、その結論が出るのは年明け以降となりそうです。

商務部「2011年独占禁止業務主要状況」特別新聞発布会

2011年12月27日、中国商務部が「2011年独占禁止業務主要状況」特別新聞発布会を開催しました(商務部召開催“2011年反壟断工作主要情況”専題新聞発布会)。

同部独占禁止局の尚明局長が2011年の法執行状況について説明した後、記者からの質問に答えており、きわめて有益な情報源となります。主なポイントは、第1に、2011年の法執行状況に関するデータ、第2に、2012年の業務予定、の2点です。これ以外に、企業結合の競争影響の評価に関する暫定規定(2011年9月5日施行)、国際交流協力、国務院独占禁止委員会弁公室としての業務等についても紹介がありますが、ここでは省略します。

1.企業結合案件審査業務
(1) 最新統計データ
2011年1~12月中旬の期間で、企業結合独占禁止届出を受け取ったのは194件で、前年同期比43%の増加。そのうち(正式に受理し)立件したのが179件で、前年同期比52%の増加。審査終結が160件で、前年同期比40%増加。案件の処理結果から言えば、無条件承認が151件で94%、条件付承認が4件で3%、立件後撤回されたものが5件で3%をそれぞれ占める。

(2) 案件の全体的特徴
すでに終結した160件中、国民経済業界分類に基づけば、製造業が103件で64%と昨年と大差ない。情報伝達、計算機サービス及びソフトウェア業が13件で8%を占めた。電力、ガス及び水の生産供給業が10件で6%を占めた。交通運輸、倉庫及び郵便業が10件で6%を占めた。さらに卸売小売業が10件で6%、採掘業が7件で4%をそれぞれ占め、建築業が3件、金融業が2件、不動産業1件、科学研究、技術サービス及び地質探査業が1件あった。

2010年と各業界の占める比率を比較すると、2011年は製造業、交通運輸、倉庫及び郵便業の案件比率が増加した一方で、採掘業、卸売小売業の案件の比率が低下したが、その他の業界の案件の比率は明らかな変化がなかった。
(「外国籍企業の案件がどの程度の比重を占めるのか」との記者の質問に答えて)法律上、外国投資が中国に来れば中国企業となるので、いかに外資企業を画定するかという問題があるため、具体的な統計を出すことは極めて難しいが、大まかに言えば、外資企業が関係する企業結合が非常に大きな比重を占める。

(3) 条件付承認案件
ウラルカリウムによるシリビニト吸収合併審査決定公告(2011年6月2日)
ペネロプによるサビオ繊維機械買収審査決定公告(2011年10月31日)
ゼネラル・エレクトリック(中国)及び中国神華石炭水スラリーガス化技術合弁審査決定公告(2011年11月10日)
シーゲイトテクノロジーによるサムスン電子ハードディスクドライブ事業譲受け審査決定公告(2011年12月12日)
(「もう1件、ウエスタンデジタルによる日立グローバルストレージテクノロジーズ買収の審査はどうなっているか」との記者の質問に答えて)現在審査中であり、届出企業側が適当な約束を提出すれば、類似の条件付承認の決定となる可能性があることを示唆。なお、日本公正取引委員会は、2011年12月28日、ウエスタンデジタルによる日立グローバルストレージテクノロジーズ買収を条件付で承認する一方、シーゲイトテクノロジーによるサムスン電子事業譲受けについては無条件で承認した旨報道発表しています。

2.来年の業務の展望
(1) 実施規定の立法作業の推進
① 企業結合制限的条件付加規定(2012年発布予定)
② 法に従った届出がなされてない企業結合の調査処理暫定弁法(2011年12月7日商務部部務会議原則通過、記者の質問に答えて2012年8月又は年末までに新たな情報)
③ 届出基準に達しないが独占の疑いのある企業結合の調査処理弁法
④ 企業結合届出表の改訂

(2) 企業結合法執行の改善
案件数が大幅に増加する状況において、案件審査方法の改善を研究し、案件審査効率をさらに向上し、案件審査期間を短縮し、競争を排除し、又は制限する効果をもたらしうる案件の審査により多くの精力を集中する。同時に、 「法に従った届出がなされてない企業結合の調査処理暫定弁法」の発布と結合して、法に従った届出がなされていない企業結合案件を法に従って調査処理する。

(「審査効率を上げるために、案件の複雑性に基づいて異なる手続、たとえば簡易手続を適用することは考えられないか」との記者の質問に答えて)届出される案件の一部、たとえば市場シェアの小さいものや垂直的結合などは、確実に競争への影響の大きくない可能性がある。簡易手続と複雑手続の区別について経験豊富な欧米等と交流中であり、2012年には進展があることを希望している。

東風日産民事訴訟事件で原告敗訴判決

2011年12月15日、このブログ(2011年3月21日付投稿の2010年11月1日の項目)でも触れたことのある東風日産自動車純正部品・修理サービス抱き合わせ販売事件民事訴訟事件に関し、長沙市中級人民法院が原告敗訴の判決を下しました(姚芃「首例汽車消費領域反壟断民事案原告敗訴 消費者対“応承担挙証不能的不利后果”提出上訴」法制日報2011年12月17日第8版 及び王斯靖「“天籟”車主提起“反壟断”訴訟敗訴」法制周報2011年12月18日参照)。

この事件は2010年11月1日、湖南省長沙市岳麓区人民法院に提訴され、同法院にて立案されましたが(姚芃「湖南首起反壟断民事糾紛立案」法制日報2010年11月3日第6版)、その後、おそらく独占民事訴訟の管轄権が中級人民法院にあるとの理由で、長沙市中級人民法院に移送され、2011年5月4日、同法院にて開廷審理開始されるという経緯をたどった事件です(同「東風日産被訴壟断経営汽配案開庭」法制日報2011年5月5日第6版)。

事件の背景事実は以下の通りです。原告の劉大華氏が2009年6月に東風汽車有限公司東風日産乗用車公司(以下「東風日産社」という。)のティアナ(中国名:天籟)を購入後、2010年10月22日、同車が故障したため、東風日産社ディーラーの湖南華源実業有限公司(以下「湖南華源実業社」という。)に持ち込みました。しかし、300元と高額の修理費を提示されたため、自分で修理するとして部品のみを注文したところ、これを拒絶されました。当該供給拒絶は、対外的には純正部品を販売しないという東風日産社の全社的な販売政策を理由としたもので、どこに行っても東風日産社系列の部品を入手することはできないとの説明でした。そこで劉氏は、致し方なく、合計607元(部品費307元+修理費300元)を支払いましたが、あとで調査してみると、部品費は市場における同種の産品の販売価格の3倍以上、修理費も7倍以上であることが分かりました。そこで劉氏は、東風日産社が市場支配的地位を濫用して、独占的な事業政策を制定し、ディーラーと共同して競争者を排除し、高額の利潤を搾取し、消費者の合法権益の重大な侵犯を行ったと考え、法院に対し、東風日産社及び湖南華源実業社に独占事業行為を停止し、合理的な価格でエンドユーザーに部品を提供するよう命じ、もって劉氏を含む多くの消費者の合法利益を保護するよう請求して、訴訟を提訴しました。

このように劉氏は、結果として純正部品を主たる商品として、修理サービスを従たる商品とする抱き合わせ販売をされた形となったので、ちょうど日本における東芝エレベータ事件甲事件(ビルオーナーが原告)と似たような構図となります。よって、当該販売政策に基づく部品のみの供給拒絶が、市場支配的地位の濫用のうち取引拒絶(中国独禁法17条1項4号)、又は抱き合わせ販売(同5号前段)の行為類型に該当するとしても、部品のユーザー自身やディーラー以外の修理業者による修理では安全性が確保できないからという、「安全性確保の目的」によって正当化されうるかという潜在的な論点が浮かび上がります。

しかし、第一審では原告が被告の東風日産社の「部品供給市場」での支配的地位を主張したのに対し、被告側が「自動車供給市場」で50%以上のシェア(中国独禁法19条1項1号による支配的地位の推定基準)を有しないと反論して、支配的地位の有無が主な論点となったようです。法院は、原告は自動車の部品供給市場と修理サービス市場に関し十分に調査しておらず、原告の提出した証拠は被告の市場支配的地位を立証できていないという理由で原告敗訴の判決に至った模様です(判決文は未入手)。ただ、同時に判決は、被告がその販売ネットワークで提供するアフターサービスについて統一管理を行ったとしても、それが直ちに反競争性を持つことを意味するわけではないとも述べているようなので、上記のような安全性確保を理由とした正当化の可能性も考慮に入れている可能性もあります。

なお、原告の劉氏は「東風日産社のティアナの一ユーザー」ですが、その実、この人は弁護士(湖南鋭傑律師事務所主任)なので、本件は2008年8月1日の中国独占禁止法施行直後から頻発した「弁護士による消費者としての立場での提訴」型の一例と位置づけることができます。劉氏は、当該敗訴判決を不服として早速、湖南省高級人民法院に上訴したとのことです。高級法院で原審判決が維持されるのか、取り消され原告勝訴となるのか注目されるところです。

原審判決に関し気になるのは、「被告による公開財務データ、市場調査、経済分析、専門的研究、統計テータ」という証拠基準を導入している点です。これらの基準は、今年の4月に意見募集稿が公表された最高人民法院の独占民事訴訟に関する司法解釈草案の第9条第4項が、市場支配的地位の立証に際し、一応の証拠となりうると規定した「上場会社の開示情報、被告の自認情報、第三者機関が独立で作成した市場調査、経済分析、専門的研究、統計結果等」とほぼ一致しているため、同草案が制定前から既に法院による独占民事訴訟の審理に大きな影響を与えている可能性を示しています。同条は原告の立証責任を軽減しようとの趣旨に基づく規定と理解していたのですが、むしろ実務上、原告に対し相当厳格な立証水準を求める余地があるのかもしれません。

今回は速報のみで。詳しい分析は余裕があれば掲載しようと思います。